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  • 【2026年10月1日施行】カスハラ・求職者等セクハラ対策の義務化

    「同じお客様からの電話が3時間続いて、担当者が泣きながら受話器を置いていた」——こうした場面、これまでは現場の判断でしのいでいた会社も多いと思います。

    でも令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等に対するセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)への対策が、すべての事業主の義務になります。施行まであと1か月。何をすればいいのかを整理しました。


    ① 法改正で変わること

    いつから?と根拠の法律の解説

    令和7年6月11日に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)」が公布されました。これにより、カスハラと求職者等セクハラの防止措置が事業主の義務となります。施行日は令和8年10月1日です。

    あわせて、令和8年2月26日に2つの防止指針が公布されています。

    指針 告示番号 対象
    カスタマーハラスメント防止指針 令和8年厚生労働省告示第51号 改正労働施策総合推進法
    求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針 令和8年厚生労働省告示第52号 改正男女雇用機会均等法

    さらに、令和8年4月24日には施行通達と、実務上の解釈を示したQ&A(「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」)が発出されました。細かい判断に迷ったときは、このQ&Aが実務の拠りどころになります。

    カスタマーハラスメントとは?

    指針では、次の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。

    ① 顧客等の言動であって、 ② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの

    電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

    ここで大事なのは、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではないという点です。正当なクレームや、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めること、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たりません。

    ②の「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の典型例は次のとおりです。

    言動の内容が許容範囲を超えるもの 手段や態様が許容範囲を超えるもの
    そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
    契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
    対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求 威圧的な言動
    不当な損害賠償要求 継続的、執拗な言動/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

    「内容」と「手段や態様」の一方だけが許容範囲を超える場合でも該当し得る点に注意が必要です。

    「顧客等」はどこまで含まれる?

    思っているより広いです。

    • 顧客(商品を購入する人、サービスを利用する人)
    • 取引の相手方、取引先の担当者、契約交渉の担当者
    • 施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者およびその家族
    • 施設の近隣住民
    • 今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある人(潜在的な顧客)

    Q&Aでは、まだ契約関係が発生していない人からの言動も、今後顧客になることが想定されない近隣住民からの言動も、3要素を満たせばカスハラに該当するとされています。

    求職者等セクハラとは?

    事業主が雇用する労働者による「性的な言動」により、求職者等による求職活動等が阻害されるものをいいます。

    用語 範囲
    求職者等 ①求人に応募する求職者
    ②採用に資する活動(就職説明会、インターンシップ、OB・OG訪問等)に参加する者
    ③教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
    求職活動等 採用面接への参加、就職説明会への参加、労働者への訪問、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習等の受講 など(SNS等オンラインを介したものも含む)

    【具体例】

    • インターンシップで、社員が学生に性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行い、学生が苦痛に感じて活動が手につかなくなった
    • OB・OG訪問の際に社員から性的な関係を求められ、その学生の求職活動の意欲が低下した
    • インターンシップ中に社員が学生を執拗に私的な食事に誘い、求職活動の意欲が低下した

    男性も女性も加害者にも被害者にもなり得ますし、同性に対するものも該当します。相手の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず該当し得る点も、通常のセクハラと同じです。

    対象になるのはどんな会社?

    業種・規模を問わず、すべての事業主が対象です。 労働者を1人でも雇用していれば、パート・アルバイトだけの職場でも対応が必要になります。指針でも、周知・啓発の対象となる「労働者」は事業主が雇用する労働者のすべてを指すとされています。


    ② 企業がしなければならないこと

    カスハラ対策:講じなければならない10の措置

    区分 措置の内容
    方針の明確化・周知啓発 ① カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
    ② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
    相談体制の整備 ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
    ④ 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
    事後の迅速かつ適切な対応 ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
    ⑥ 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
    ⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる
    抑止のための措置 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、対処を行うことができる体制を整備する
    あわせて講ずべき措置 ⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
    ⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

    ②の「対処の内容」として指針が挙げているのは、次のようなものです。

    • 管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ
    • 可能な限り労働者を一人で対応させない
    • 犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
    • 本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ
    • 十分な説明を行ってもなお繰り返しの要求が続く場合は、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりする

    ⑧の「特に悪質な事案への対処」の例としては、行為者に対する警告文の発出店舗・施設等への出入り禁止が示されています。

    なお、これらの対策を講じる際は、消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があります。

    求職者等セクハラ対策:講じなければならない11の措置

    区分 措置の内容
    方針の明確化・周知啓発 ① 求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
    ② 行為者を厳正に対処する旨の方針および対処の内容を、労働者に周知・啓発する
    求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者および求職者等に周知・啓発する
    相談体制の整備 ④ 相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知する
    ⑤ 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
    事後の迅速かつ適切な対応 ⑥ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
    ⑦ 被害者に対する配慮のための措置を行う
    ⑧ 行為者に対する措置を適正に行う
    ⑨ 再発防止に向けた措置を講ずる
    あわせて講ずべき措置 ⑩ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者および求職者等に周知する
    ⑪ 労働者が事実関係の確認等に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

    ③の「求職活動等に関するルール」とは、面談等を行う際の規則のことです。Q&Aでは次のものが例示されています。

    • 面談時間および場所の指定
    • 実施体制(複数人で対応することとする等)
    • 求職者等とのやり取りに用いるSNSの種類の指定

    このルールは、定めるだけでは足りません。労働者に対しては研修や講習で周知・啓発し、求職者等に対してはホームページやパンフレット等で面談等に関する留意事項を周知する必要があります。

    カスハラとの一番の違いは、周知先に「求職者等」が入ることです。相談窓口も、社内向けではなく採用ページなどで外部に見える形にしておく必要があります。

    就業規則の改定は必須?

    自社の労働者が取引先等に対してカスハラを行った場合、就業規則等に基づいて懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとされています。ただしQ&Aでは、信用失墜行為や服務規律違反に対する既存の懲戒規定で対応できる場合は、カスハラ独自の規定を新設する必要はないとされています。

    まずは自社の就業規則を開いて、既存の服務規律・懲戒規定でカバーできるかを確認するところからで大丈夫です。

    10月1日までにやることチェックリスト

    • □ カスハラに毅然と対応し労働者を保護する旨の方針を文書化する
    • □ カスハラの内容と具体的な対処手順(誰に、どのタイミングで報告し、どこで打ち切るか)を決める
    • □ 特に悪質な事案への対処方針(警告文、出入り禁止など)と、その判断ができる体制を決める
    • □ カスハラ相談窓口を決め、全労働者に周知する
    • □ 求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を、採用に関わる全社員に周知する
    • □面談ルール(時間・場所・複数対応・使用SNS)を明文化する
    • □ 求職者等向けの相談窓口を設け、採用ページやパンフレットに掲載する
    • □ 相談窓口担当者向けの対応マニュアル・研修を用意する
    • □ 就業規則の服務規律・懲戒規定を確認する(必要に応じて改定)
    • □ プライバシー保護と不利益取扱い禁止を社内規程に明記する

    ③ 担当者が知っておきたいこと

    ここからは、実務で「これはどうなるの?」と迷いやすいポイントを、厚労省のQ&Aをもとに整理します。

    顧客と接しない部署の社員にも周知が必要?

    必要です。 「顧客等」には取引の相手方や施設の利用者も含まれるため、直接の接客がない部署でも対象になります。指針上の「労働者」は事業主が雇用する労働者のすべてを指すので、所属部署や雇用形態を問わず、全員に周知しなければなりません。パート・アルバイトも当然含まれます。

    訪問先で受けた言動もカスハラになる?

    なります。 労働者が通常就業している場所以外でも、取引先の事務所や顧客の自宅など、業務を遂行する場所は「職場」に含まれます。訪問看護・訪問介護のように利用者宅で働く場合、その利用者やご家族からの言動も対象です。

    カスハラかどうか、労働局が判断してくれる?

    してくれません。 事実関係の確認を迅速かつ正確に行うのは事業主の義務であり、都道府県労働局は個々の言動がカスハラに該当するかどうかの判断は行いません。会社が自ら、指針の定義に照らして判断する必要があります。

    判断の際は、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容や性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮します。就業環境が害されたかどうかは、「平均的な労働者の感じ方」が基準です。ただし、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば、1回の言動でも該当し得ます

    なお、自社側の不適切な対応が言動の原因や背景になっている場合もある、という点も判断の際に留意すべきとされています。

    顧客とのやり取りを録音・録画するときの注意点は?

    対処方法として録音・録画を導入する会社は多いと思いますが、個人情報保護法との関係に注意が必要です。

    録音・録画で取得する情報が個人情報に該当する場合、利用目的をできる限り特定し、本人への通知または公表が必要です。カスハラ事案の事実関係の確認に使うのであれば、その旨をあらかじめ利用目的に含めておかなければなりません。

    公表の方法としては、プライバシーポリシー等に利用目的を記載し、自社ホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所に掲載する方法が示されています。

    その場で「録音しています」と伝える義務まではありませんが、カメラの設置状況等から本人が容易に認識できない場合は、認識可能にするための措置が必要です。

    相談窓口は他のハラスメントと一体にすべき?

    パワハラやセクハラは他のハラスメントと複合的に生じることがあるため一元化が望ましいとされていますが、カスハラは別扱いでかまいません。事案が発生したその場ですぐ相談することや、現場に精通した上司に相談することが適切な場合もあるため、労働者の上司に当たる管理監督者等を相談担当者とすることも認められています

    一方、求職者等セクハラの相談窓口については、求職者が採用担当である人事担当者への相談をためらうことも想定されるため、人事担当者以外を担当者に指定することも考えられるとされています。

    内定者はどちらの指針で対応する?

    採用内定により労働契約が成立したと認められる場合は労働者として扱われ、通常のセクハラ防止指針に沿った対応が必要です。ただし内定者が学生の場合、入社までの間に内定者向け説明会や懇親会への参加が想定されるため、求職者等セクハラ防止指針の内容も参考にすることが望ましいとされています。

    労働契約が成立したと認められない場合は、その内定者は「求職者等」に該当します。

    定期的に採用していない会社も対応が必要?

    人員不足のときだけ中途採用する会社の場合、求職者等と労働者が接する機会がない期間は、求職者等セクハラの措置をすべて講じていなくても差し支えないとされています。ただし、採用活動を開始して説明会や面接を実施することになれば、その時点ですべての措置義務を履行する必要があります

    「うちは採用していないから関係ない」ではなく、「採用を始めるときまでに準備しておく」が正解です。

    自社が「加害者側」になることもある

    見落とされがちですが、今回の改正では事業主・労働者双方の責務も定められています。

    • 事業主:自社の労働者が他社の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の配慮をすること
    • 労働者:他社の労働者に対する言動に必要な注意を払い、事業主の措置に協力すること

    さらに、他の事業主から事実関係の確認等について協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めなければなりません(努力義務)。協力を求められたことを理由に契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないとされています。

    取引先の担当者に対する自社社員の高圧的な態度が、相手方から「カスハラです」と指摘される時代になった、ということです。営業部門への周知は特に丁寧に行いたいところです。

    罰則はある?

    改正法に直接の罰則規定はありません。ただし、措置義務違反は都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表され得ます。また、カスハラをめぐる紛争は調停の対象にもなります。

    それ以上に大きいのは、対策を怠った結果として社員が負傷したりメンタル不調で休業したりした場合に、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるリスクです。罰則の有無ではなく、社員を守る仕組みとして整えておきたいところです。

    パワハラ・セクハラ・マタハラの指針も改正されている

    今回あわせて、既存のパワハラ防止指針、セクハラ防止指針、妊娠・出産等に関するハラスメント防止指針についても、令和8年10月1日適用の改正版が公表されています。

    たとえば、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティについて、本人の了解を得ずに暴露すること(アウティング)に加え、カミングアウトを禁止する、または強要する行為もパワハラに該当し得ることが明確化されています。

    カスハラ対応の準備にあわせて、既存のハラスメント防止規程も一度見直しておくことをおすすめします。


    まとめ:4つのポイント

    項目 内容
    施行日 令和8年10月1日
    対象 業種・規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業主
    カスハラ 方針の明確化・相談体制・事後対応・悪質事案への対処体制など10の措置が義務
    求職者等セクハラ 面談ルールの明確化・求職者等向け相談窓口の周知など11の措置が義務

    ポイントは「顧客からの苦情がすべてカスハラになるわけではない」ということです。会社に求められているのは、顧客を敵に回すことではなく、どこまでが正当な要求で、どこからは組織として対応を打ち切るのか、その線引きをあらかじめ決めて社員に伝えておくことです。線引きが決まっていない職場ほど、現場が一人で抱え込みます。

    そして求職者等セクハラは、「社員に悪気はなかった」で済まなくなりました。OB・OG訪問やインターンシップを実施している会社は、面談ルールの明文化から着手するのが近道です。

    方針の文書化、対処マニュアルの作成、就業規則の見直し、社内研修まで、10月1日に向けた準備でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。スポット対応も承っております!


    参考資料リンク

    🔗 参照:職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省

    🔗 参照:リーフレット(詳細版)「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」|厚生労働省

    🔗 参照:事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)|厚生労働省

    🔗 参照:事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)|厚生労働省

    🔗 参照:ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について|厚生労働省

    🔗 参照:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省

  • 扶養内パートは今後どうなる?第3号被保険者と社会保険適用拡大の正しい話

    「第3号被保険者制度って、なくなるんですか?」
    「パート扶養って無くなるんでしょ?」

    最近、扶養制度の今後について不安視する声が多く見られます。SNSや動画では「専業主婦も保険料を払うようになる」「扶養完全廃止!?」といった刺激的な見出しも目立ちます。

    ですが、2025年に成立した法律で確定したことを一つずつ確認していくと、実態はかなり違います。この記事では、公的資料だけをもとに「すでに決まったこと」「まだ議論の段階のこと」を分けて整理します。


    ① 確定したのは「第3号の廃止」ではなく「社会保険の適用拡大」

    2025年6月13日に成立、2025年6月20日に公布されたのが、年金制度改正法(正式名称:社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)です。

    ここで真っ先に押さえておきたいのは、この法律に「国民年金第3号被保険者(だいさんごうひほけんしゃ)制度の廃止」は盛り込まれていない、ということです。今回確定したのは、被用者保険(厚生年金・健康保険いわゆる社会保険)の適用拡大です。

    つまり「第3号制度そのものをなくす」のではなく、「社会保険に入る人の範囲を広げる」という改正だと考えてください。結果として第3号から外れる人は増えますが、それは制度の廃止とは意味が違います。ここが、「扶養制度の廃止!?」といった記事と事実が食い違っている一番のポイントです。

    何が変わる?

    短時間労働者(パート・アルバイト)が社会保険に加入するかどうかは、これまで複数の要件で判断されてきました。今回の改正で見直されるのは、主に次の3つです。

    項目 これまで 改正後
    企業規模要件 従業員51人以上の企業のみ対象 段階的に縮小し、最終的に企業規模を問わず対象
    賃金要件 月額8.8万円以上(いわゆる「106万円の壁」) 撤廃
    個人事業所 常時5人以上を使う法定17業種のみ強制加入 常時5人以上を使う全業種に拡大

    賃金要件と企業規模要件が撤廃されると、短時間労働者は週の所定労働時間が20時間以上(+2か月を超える雇用見込みがあり、学生でない)であれば、勤め先の規模や月収にかかわらず社会保険に加入することになります。

    いつから?

    すべてが一斉に変わるわけではなく、段階的に進みます。

    • 企業規模要件:法律の公布(2025年6月)から10年かけて段階的に縮小・撤廃
    • 賃金要件(106万円の壁):公布(2025年6月)から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断されます(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間働くと、年額換算で約106万円になるため)
    • 個人事業所の適用拡大:2029年10月施行。ただし施行時点ですでにある事業所は、当分の間は対象外です。

    「来月から急に全員加入」という話ではない、という点はパートで働いている方や労務担当者が把握しておきたいポイントです。

    🔗 参照:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省


    ② 扶養内でパートをしている方はどうなる?

    ここが、いちばん気になる方が多いポイントでしょう。厚生労働省も公式サイトのよくある質問で正面から回答しているので、その内容に沿って整理します。

    週20時間以上働くと、社会保険に加入することになる

    配偶者に扶養されている方(第3号被保険者)がパート・アルバイトで働く場合、雇用契約などでの週の所定労働時間が20時間以上であれば、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入することになります。

    社会保険料の負担は発生します。ただ、デメリットばかりではありません。

    • 将来の年金が、基礎年金に厚生年金が上乗せされ、終身で受け取れる
    • 健康保険からも、病気・けが・出産で会社を休んだときの給付(傷病手当金・出産手当金など)が手厚くなる
    • もしものとき、障害を負った場合の保障も手厚くなる(国民年金だけなら対象外の障害でも障害厚生年金の対象になる)

    たとえば、これまで扶養内(第3号)で月8万円ほど働いていた方が、シフトを増やして週20時間以上・月10万円で働くようになると、社会保険に加入し、その分だけ将来の厚生年金が積み上がっていく、というイメージです。

    週20時間未満なら?

    週の所定労働時間が20時間未満であれば、原則として社会保険の加入対象にはなりません。 この場合は、引き続き配偶者の扶養(第3号)でいられます。

    ただし、注意点が2つあります。

    • 残業などで一時的に週20時間以上になっても、すぐに加入対象になるわけではありません。ただし、週20時間以上の状態が2か月を超えて続くようであれば、加入対象となることがあります。
    • 年収130万円以上になると、週20時間未満で働く場合でも配偶者の扶養(第3号)から外れ、国民年金と国民健康保険の保険料が発生します。いわゆる「130万円の壁」は、今回の改正後も別途残るということです(収入が一時的に上がった場合は、事業主の証明により引き続き扶養が認められる特例があります)。

    担当者がやること

    ☑ 短時間労働者の週の所定労働時間を契約書ベースで確認する
    ☑  扶養内(第3号)で働いている従業員に、適用拡大の時期と影響を早めに伝える
    ☑  新たに加入対象となる従業員について、保険料負担の軽減措置(後述)が使えるか確認する

    🔗 参照:社会保険の加入対象の拡大について|厚生労働省
    🔗 参照:「年収の壁」への対応|厚生労働省


    ③ 「第3号制度が廃止される」という話の正体

    ではなぜ、「第3号がなくなる」「扶養制度が終了する」という情報がこれほど広がっているのでしょうか。原因は、「提言・議論」と「決定事項」が混同されていることにあります。

    第3号被保険者制度そのものの縮小・見直しは、確かに長年議論されています。

    • 社会保障審議会の年金部会では、以前から「第3号被保険者を将来的に縮小していく」方向性が共有されてきました
    • 財務省の諮問機関である財政制度等審議会も、保険料を負担せずに基礎年金を受け取れる点などを「公平性」の観点から取り上げ、制度の見直しを建議(提言)してきています

    ただし、これらはあくまで「検討・提言」の段階です。年金部会の議論も財政審の建議も、それ自体が法律を変える力を持つわけではありません。実際、2025年に成立した改正法では、第3号制度そのものの廃止・縮小は見送られています

    審議会の議論や建議が「もう決まったこと」のように切り取られて拡散される——これが「第3号がなくなる!?」という不安の正体です。

    まだ決まっていないこと

    • 第3号被保険者制度そのものを縮小・廃止するかどうか
    • 仮に見直す場合の、対象者や所得制限などの具体的な中身

    これらは法律として確定していません。今後の審議会・国会での議論を、一次情報で追っていく必要があります。

    なお、仮に将来的に制度が見直される場合でも、一般的に年金制度の改正は、すでに受給している方や加入実績を積んだ方の給付がただちに止まる・減るという形ではなく、これからの取り扱いを段階的に変えていく形で議論される、という点も押さえておくと、過度な不安は避けられます。

    🔗 参照:財政制度等審議会 財政制度分科会|財務省


    補足:新たに加入対象になる従業員への支援策

    適用拡大で新たに社会保険に加入する短時間労働者には、特例的・時限的な保険料負担の軽減措置が設けられます。

    • 対象:従業員数50人以下の企業などで、要件の見直しにより新たに加入対象となる短時間労働者で、標準報酬月額が12.6万円以下の人
    • 期間:3年間
    • 内容:本来は労使折半の保険料について、希望する事業主が自社の負担割合を増やして従業員の負担を軽くできる。事業主が追加で負担した分は、その全額を制度全体で支援する。

    「保険料負担で手取りが減る」という不安に対して、激変緩和の仕組みが用意されている、という点はパートで働く方へぜひ伝えてあげてください。


    まとめ:「第3号がなくなる」ではありません

    最後に、この記事の核心をもう一度整理します。

    • 確定したのは「社会保険の適用拡大」であって、第3号被保険者制度(社会保険の扶養制度)そのものの廃止ではありません。
    • 適用拡大により、週20時間以上働く扶養内パートの方は社会保険(厚生年金・健康保険)に加入することになりますが、その分将来の年金や保障は手厚くなります
    • 週20時間未満であれば、原則これまでどおり第3号でいられます(ただし130万円の壁は別途残ります)。
    • 第3号制度そのものの縮小・廃止は、財務省(財政審)や審議会で議論されている段階で、まだ決まっていません

    「第3号がなくなる」のではなく、「社会保険に入る人が段々と増えていく」。これが、いま確定している事実です。不安をあおる情報に振り回される前に、自社の従業員がどの区分に当てはまるのかを一度整理しておくことをおすすめします。

    社会保険適用拡大への対応や、従業員への説明資料の作成、扶養の判定でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。スポット対応も承っております。

  • 意外と知らない休日手当!?

    意外と知らない休日手当!?

    休日出勤したのに休日手当が無い!?

    「休日出勤したのに、なぜ割増がつかないの?」

    日曜日に出勤したのに、給与明細を見たら通常の時給だけ……。「え、休日手当は?」と疑問に思ったことはありませんか?

    実は、すべての「休日出勤」に休日手当(割増賃金)がつくわけではないんです。
    労働基準法では、「法定休日」と「法定外休日」が明確に区別されており、割増賃金の対象になるのは「法定休日」の労働だけなのです。

    今回は、意外と知られていない「休日出勤」と「残業代」の違いについて、わかりやすく解説します。

    「法定休日」と「法定外休日」の違い

    法定休日とは?

    労働基準法で定められた「毎週少なくとも1回、または4週を通じ4日以上」の休日のことです。企業はこの法定休日を必ず与えなければなりません。
    法定休日は現時点(2026年1月26日時点)では特定することまで求められていませんが、就業規則で日曜日や他の曜日を法定休日とすることも可能です。また、特に定めが無い限りは1週間は日曜日から考えます。

    法定外休日(所定休日)とは?

    法定休日以外の会社が定めた休日のことです。例えば、完全週休2日制(土日休み)の会社の場合、日曜日が法定休日なら、土曜日は「法定外休日」となります。

    休日出勤の割増率の違い

    法定休日に出勤した場合:割増率35%以上
    法定外休日に出勤した場合:割増なし(ただし週40時間を超えた場合は時間外労働として25%以上の割増)

    つまり、土日休みの会社で土曜日(法定外休日)に出勤しても、その週の労働時間が40時間以内であれば、割増賃金は発生しません。

    具体例で理解しよう

    【ケース1】月曜~金曜まで8時間ずつ勤務(計40時間)+ 土曜日(法定外休日)に8時間出勤
    → 週の労働時間が48時間となり、40時間を超えた8時間分に対して25%以上の時間外割増(時間外手当)が発生

    【ケース2】月曜~木曜まで8時間ずつ勤務(計32時間)+ 土曜日(法定外休日)に8時間出勤
    → 週の労働時間が40時間なので、割増賃金は発生しない(通常の時給のみ)

    【ケース3】月曜~金曜まで8時間ずつ勤務(計40時間)+ 日曜日に8時間出勤
    → 法定休日を日曜日に特定していなければ、金曜日の8時間に対して25%以上の割増賃金(時間外手当)が発生
    → 法定休日を日曜日に特定していれば、日曜日の8時間に対して35%以上の割増賃金(休日手当)が発生

    このように、同じ休日出勤でも、その週の労働時間や法定休日の特定有無によって割増の有無が変わるのです。

    「振替休日」と「代休」の違いも要注意

    休日出勤に関連してもう一つ知っておきたいのが、「振替休日」と「代休」の違いです。混同されがちな制度ですが、労働日の前か後かで判断するとわかりやすいです。

    振替休日(前に手続き)

    あらかじめ休日と労働日を入れ替えること。事前に手続きをすれば、休日と労働日を振り替えて労働日は平日として扱われるため、割増賃金は発生しません。

    代休(後に手続き)

    休日労働をした後に、代わりの休日を与えること。すでに休日労働が発生しているため、法定休日の場合は35%以上、所定休日であれば25%以上の割増賃金を支払う必要があります

    労務担当者が注意すべきポイント

    36協定届の有効期間に注意!

    時間外労働や休日出勤をする場合には事前に36協定の締結と管轄の労働基準監督署への届出が必須です。1年の有効期間にも注意しておき、届出忘れや期限切れに注意しましょう。

    振替休日の手続きを整備する

    振替休日を利用する場合は、事前申請のルールを明確にし、書面で残しておくことが重要です。

    週の労働時間を正確に把握する

    法定外休日の出勤でも、週40時間を超えれば時間外労働になり割増賃金の支払いが必要です。勤怠管理システムで正確に把握しましょう。

    まとめ:休日手当がつかない休日出勤もある!

    「休日出勤=必ず割増」ではありません。法定休日か法定外休日か、そして週の労働時間が40時間を超えているかどうかで、割増の有無が変わります。
    新社会人や労務担当者の方は、この違いをしっかり理解しておくことで、給与計算のミスを防ぎ、従業員からの問い合わせにも自信を持って答えられるようになります。


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  • 労務担当者の一年

    労務担当者の一年

    労務担当者の一年 ~年間スケジュールを把握して計画的に働こう~

    労務の仕事は「年間スケジュール」が重要!

    初めて労務を担当することになった方、または労務経験がまだ浅い方にとって、「労務って何をいつやればいいの?」という疑問は誰もが抱くものです。
    実は、労務の仕事は年間を通して決まったスケジュールで動いているものが多いのです。

    今回は、労務担当者が押さえておきたい一年間の主要業務を月ごとにご紹介します。このスケジュールを頭に入れておけば、「あ、来月はあの業務があるな」と事前準備ができ、慌てることもなくなりますよ!

    労務担当者の年間スケジュール

    1月:年始の準備と法定調書

    • 法定調書の提出(1月31日まで)
    • 給与支払報告書の提出
    • 償却資産申告書の提出

    年が明けたらすぐに動き出す必要があります。前年の源泉徴収票や支払調書をまとめて税務署に提出する時期です。

    2月~3月:新年度準備

    • 新入社員の受け入れ準備
    • 就業規則の見直し
    • 法改正のチェック
    • 36協定の更新(4月始まりの場合)

    新年度に向けて、就業規則の見直しや新入社員手続きの準備をしておきましょう。

    4月:新入社員対応と労働保険の年度更新準備と障害者雇用納付金等の申告申請

    • 新入社員の社会保険・雇用保険加入手続き
    • 障害者雇用納付金等の申告申請

    入退社が多いシーズンのため、資格取得届などの手続きが集中します。忙しい時期ですが、ミスのないよう丁寧に進めましょう。また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構におこなう障害者雇用納付金・報奨金の申告申請も進めましょう。

    5月:労働保険の年度更新と特別徴収住民税額の更新

    • 労働保険の年度更新(6月1日~7月10日)の準備
    • 特別徴収住民税額の更新

    労働保険料の計算と申告の準備を始める時期です。前年度(前年4月~本年3月)の賃金総額を集計し、今年度の概算保険料を計算します。また、住民税額を給与システム等に登録・更新しておきます。

    6月:障害者雇用報告のハローワーク提出

    • 障害者雇用状況報告の提出(従業員40名以上の企業)
    • 賞与支払届の提出(賞与支給時)
    • 算定基礎届の準備(7月10日まで)
    • 労働保険の年度更新の準備(7月10日まで)

    従業員以上の事業主は毎年6月1日時点の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。

    7月:算定基礎届と労働保険の年度更新

    • 算定基礎届の提出(7月10日まで)
    • 労働保険の年度更新(7月10日まで)

    労務担当者にとって最も忙しい時期の一つです。算定基礎届は、4月~6月の給与をもとに社会保険料を決定する重要な手続きです。

    8月~9月:夏季休暇対応と下半期準備

    • 夏季休暇中の勤怠管理
    • 下半期の人事計画確認

    比較的落ち着く時期ですが、従業員の休暇管理をしっかり行いましょう。

    10月:社会保険料の変更対応

    • 算定基礎届の定時決定による標準報酬月額の変更
    • 最低賃金の改定対応

    7月に提出した算定基礎届に基づき、社会保険料が変更されます。給与計算時に反映するのを忘れずに。

    11月:年末調整の準備開始

    • 年末調整の案内配布
    • 扶養控除等申告書の回収開始

    年末調整の書類を従業員に配布し、回収を始める時期です。早めにアナウンスしておくと、12月がスムーズになります。

    12月:年末調整の実施と冬季賞与

    • 年末調整の計算・還付
    • 賞与支払届の提出(賞与支給時)
    • 源泉徴収票の作成

    年内の支給を全て終えてから年末調整の計算をします。翌年1月の法定調書作成に向けた準備を行います。

    まとめ:年間スケジュールを把握して余裕を持とう

    労務の仕事は、上記のスケジュールに加え、毎月の勤怠集計・給与計算・入退社手続き・所得税の納付・社会保険料の納付など多岐にわたります。ミスや遅れを防ぐには、あらかじめ年間スケジュールを把握しておき、「来月は何があるか」を知って、計画的に業務を進めることがポイントです。

    初めて労務を担当する方は、この記事を年間カレンダーとして活用してみてください。慣れてくれば、自然と「今月はこれをやる時期だな」と体が覚えていきますよ!


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